柳秀直特命全権大使 ご挨拶

令和2年5月31日
柳 秀直
 ヨルダンにお住まいの皆様、また、一時的にヨルダンを離れて日本に帰っておられる皆様、3月17日にヨルダンが、新型コロナウィルス対策として、全ての航空便を停止し、国境を閉鎖してから2ヶ月半が経とうとしていますが、如何お過ごしでしょうか。ラマダン明けのイードの休みも終わりましたが、現在課されている制限はまだ暫く続きそうです。
 こうした状況も踏まえ,今回のご挨拶では、通常の業務の報告は第二部に回し、まず、新型コロナウィルス対策との関連から始めさせて頂きます。
 
1.ウィルス対策としてヨルダン政府がとった措置

(1)現状
 ラマダンが明けても、航空便の停止のみならず、大学・学校の閉鎖、県境の越境禁止、私用車のプレート末尾の奇数・偶数による一日おきの使用規制、午後7時から午前8時までの夜間外出禁止令、映画館等の禁止、レストラン、カフェの店内飲食禁止等が続けられています。4月以降の流れとしては、徐々に緩和されつつあるとは言え、種々の制限が続く中で解除の見通しが見えず、加えて、毎週金曜日には(イードは3日連続でした)例外のない包括的外出禁止令が出され、皆様も精神的な疲労感がたまっている状況ではないかと思います。日本では「自粛疲れ」という言葉があるようですが、ヨルダンにおける外出禁止令は罰則付きでもあり、当然ながら皆様にとってもプレッシャーは大きく大変な日々かと思います。他方で、一つ良いことは、こうした規制のおかげで、これまでのところヨルダン国内の感染者数は700名を超えた程度で死者は9名と、周辺国との比較では比較的安全で、アンマンも含め、感染のリスクを低く抑えられていることです。ドイツなどでレストランを再開したところ、早速いくつかの店で感染者が出てクラスターとなっているようですので,規制が暫く続くのもやむを得ない面があるようです。5月6日からは企業活動等も再開され、26日からはヨルダン政府も通常体制に戻りましたが,感染のリスクは引き続きあるので、感染しないよう最大限注意して頂きつつ,規制の解除に向けて、もう暫く我慢して頂ければと思います。

(2)大使館の役割
 こうした中、我々日本大使館としては、動きが少なかった一部の週末を除き、ほぼ毎日領事メールを出して、政府の新たな(緩和)措置と感染者数を皆様にご連絡すると共に、1~2週間に一度実現しているカタール航空かヨルダン航空の臨時便の情報を皆様に提供し、退避を支援してきました。これまで4回にわたり計29名が日本に戻られています。3月17日の航空便停止の直前に、青年海外協力隊員約40名を含め50名以上の在留邦人の方が一時帰国されたので、現時点でヨルダンに滞在されている邦人の方の数は約200名となっています。いつ、航空便が再開するのかは、アンマンにとってのハブ空港となっているいくつかの国における感染者数の数がいまだ増加傾向にあることもあり、見通しもない中、今後も臨時便による出国を希望される方がおられれば支援してまいります。

(3)コロナ関連特別措置下における日ヨルダン関係
 この期間中、二国間関係での最大の出来事は,アブドッラー2世国王陛下が、コロナ対応関連で我が国が必要としている個人防護装備(PPEs)を提供する用意があることを安倍総理に提案し、ゴーグル1万個、防護服1万着が5月初めに送られたことです。医療用N95マスクについても提供される予定で、安倍総理からは深甚なる感謝の意が伝えられました。これは4月23日の安倍総理とアブドッラー国王の電話会談、及び同日行われた茂木外相とサファディ外相の電話会談を契機として実現したものです。また、外相電話会談においては、我が国からヨルダンに対するコロナ関連支援と共に、我が国によるUNRWAの支援、中東和平問題などが取り上げられました。なお、4月22日に行われたUNRWA閣僚級戦略対話のTV会議には鈴木外務副大臣が参加され、我が国は引き続きUNRWAを支援していく旨述べました。

(4)日本政府の水際措置
 世界各国における感染の深刻化を踏まえ、日本政府は3月から段階的に水際措置の厳格化を図り、3月25日に全世界の国の感染症危険情報のレベルを2に上げて、同31日以降,日本国内に入る全ての人に二週間の自己隔離を義務づけ、4月24日以降、感染症危険情報のレベルを、各国の事情を踏まえつつ3に上げたため、今では100か国以上の人が事実上の入国拒否となり、また,当該国から戻る日本人についてはPCR検査の義務づけが導入されています。これにより、カタール、UAE、トルコ、欧州等、我が国との間で直行便を有している国の感染症危険情報のレベルが3になったため、ヨルダン自体の感染症危険情報のレベルは今でも2のままですが、事実上経由国がレベル3になってしまうため、ヨルダン人の方も日本に入国できない状態となっています。日本における緊急事態宣言は解除となりましたが、水際措置は各国の感染動向にもよるので、5月25日に,6月末まで延長されることが発表されています。ヨルダンにおける航空便の再開と共に、こちらも、もう暫くの辛抱が必要と思われます。
 
2.1月から3月半ばまでの活動
 それでは3月半ばまでの当地での活動についてご報告します。

(1)スポーツ・文化関係
 この時期の最大の出来事はボクシングの東京五輪アジア予選でした。もともとは中国武漢で予定されていたものが、新型コロナウィスルのために不可能となり,急遽3月3日から11日までアンマンで開催されることになり、コロナウィルスとの関係で、ギリギリのタイミングでしたが、無事開催されました。男子8階級、女子5階級のために日本からも男子6名、女子5名が参加し、男子の岡澤セオン選手(67キロ(ウェルター)級)、女子の並木月海選手(51キロ(フライ級))、入江聖奈選手(57キロ(フェザー級))の三選手が東京五輪への出場権を得ました。私もボクシングの試合を初めて観戦し,3人の試合を計7試合観戦させて頂きました。特に並木、入江両選手は決勝戦に進出し、惜しくも銀メダルでしたが、東京でのメダル獲得への期待が膨らむ内容でした。また,岡澤選手も敗者復活戦からよく勝ち上がりました。日本は開催国枠として男子4名、女子2名が与えられており、女子は自力で決めたわけですが、男子はこの予選の後,3名の出場が決定されました。その直後に東京五輪は一年延期になりましたが、出場権はそのまま維持されるとのことです。なお,ヨルダンからは男子5名が東京行きの切符を手にしました。そのうちウェルター級のフセイン選手は優勝を果したので,メダルの期待がかけられています。
 1月28日から29日には、東京オリ・パラでヨルダン・チームのホストタウンを務めることになった秋田県能代市の齋藤滋宣市長一行がヨルダンを訪問されました。この機会に私は、ヨルダン五輪委(JOCと略します)マジャーリ事務局長と,東京五輪への出場可能性の高い8つの競技団体の会長等を公邸にお招きしました。また、翌29日には、JOC会長のファイサル王子への表敬にも同行させて頂きました。ファイサル王子は東京五輪調整委員会のメンバーとして既に何度も訪日されておられます。
 また、日本柔道連盟からヨルダン柔道連盟に対し畳が供与され、2月18日に引き渡しの式典に参加しました。同式典にはJOCマジャーリ事務局長も出席し、柔道でのヨルダン選手の東京五輪出場への期待が述べられました。その他、文化行事としては、3月1日に草月の生け花展がヨルダン国立美術館で、ラジュワ王女の出席を得て行われ、私は家内と共に鑑賞しました。

(2)要人との会談
 この時期に、私はハラブシェ環境大臣(2月19日)、ガラーイベ・デジタル経済・起業担当大臣,ラバディ計画・国際協力大臣(いずれも2月20日),イスハカート社会開発大臣(女性、2月24日)に表敬した他、ヌスール元首相(上院議員、1月27日)、ムアッシル前副首相(上院議員,同日)、ムルキー前首相(上院議員、2月24日)、アナーニ元副首相(3月11日)、そして11月にタラーウネ下院議長と共に衆議院の招待で訪日されたカーディ、サアリーク両下院議員を表敬しました。また、2月27日には公邸にて、ジャアファル・ハッサン元副首相の昨年11月の旭日重光章の叙勲をお祝いしました。

(3)開発援助関係
 この期間中,私は、東アンマン・ナザール地区慈善医療センターへの医療機材供与(1月20日)、マカーセッド慈善病院への医療機材供与(2月17日)、マダバ生産キッチン設立のためのマダバ市への調理機材供与(3月5日)の3件の草の根無償案件と、日本国際民間協力会(NICCO)との間で、少年交流施設における心理的ケアを主眼に置いた更生支援活動の実践と支援体制モデル構築事業のためのNGO連携無償(3月2日)の贈与契約に署名しました。また、1月27日のジェラシュ・パレスチナ難民キャンプ内医療センターへの医療機材供与式(草の根無償案件)には,荒池次席が出席しました。
 国際機関関係では,2月26日にUNDPヨルダン事務所がアンマン市との協力を得て日本の資金供与により実施しているアンマン市旧市街における雇用創出や開発への貢献等,創造力に富むスタートアップ企業への表彰式と、IOMが日本の資金で実施する国境管理能力支援プロジェクトの完了式と継続事業の開始式(3月9日)に出席した他、UNHCR(2月19日)、WFP(3月12日)の当地代表と令和元年度予算による新規プロジェクトの立ち上げについて、意見交換を行いました。

(4)天皇誕生日レセプション
 2月23日、天皇陛下の誕生日に,令和になって最初の天皇誕生日レセプションを、約450名の出席を得て市内のホテルで行いました。当日は,アブルサウード水灌漑大臣に主賓として挨拶を頂いた他,、ラバディ計画・国際協力大臣等の政府要人にも出席頂きました。

(5)邦人関係・新年賀詞交換会
 1月22日に公邸にて恒例の新年賀詞交換会を開催しました。その際には、イラクにおける情勢の緊張を受けて一時退避中のイラク大使館とJICAイラク事務所の幹部若干名を含めて,約80人の在留邦人に出席頂きました。

(6)治安
 米イラン関係の緊張とイラクにおける治安状況の悪化が、当国に及ぼす影響も懸念されましたが、幸い特段の事案は生じていません。また、一般的な治安は、新型コロナウィスル対策で種々の強制措置が執られている中、警察のみならず軍も市内に動員されており、現状では特に悪化していないようです。そうはいいましても,皆様におかれては引き続き安全に注意しつつお過ごし頂くようお願いいたします。


駐ヨルダン特命全権大使 柳 秀直



<過去のご挨拶>
マダバ生産キッチンの調理機材 贈与署名式典
マカーセッド慈善病院に供与した救急車の視察
斎藤能代市長と東京オリンピック・パラリンピック関係者 レセプション
ヌスール上院議員 表敬